ブログ(仮)
Posted by l.c.oh - 2005.10.15,Sat
|
| |
|
|
塩野七生のライフワーク、ローマ人の物語の、文庫版第7回配本です。
歴史の教科書ではほとんど登場しない(ネロ帝のキリスト教弾圧の話くらい)4人の皇帝を扱っています。
扱われている皇帝は、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロの4人で、カエサルから数えると3番目から6番目までの皇帝です。彼らは、歴史の分野では古くからひどい皇帝だったという評価が定説化していました。
塩野氏は、「悪名高き皇帝たち」というサブタイトルからも想像できるように、彼らを完全な悪帝とは考えていません。ローマ史上最悪の皇帝として知られるネロですらも、(皇帝としてはともかく)人間としては愛すべき部分のある人物として描かれています。
この本が扱う時代の最大の参考文献は、タキトゥスの『年代記』だそうで、この本は4人の皇帝をくそみそに書いているそうです。塩野氏は、『年代記』を重んじながら、タキトゥスが後世の歴史認識に与えた影響から、タキトゥスがなぜくそみそに書いたのかまで丁寧に論じています。
小説家の書いた論説文(的なもの)ですので、非常に読みやすいのですが、分析や洞察は下手な論評よりよほどしっかりしているように感じました。論文としてみると、過度の一般化などが目立つ部分は多いのですが、文章の面白さ、わかりやすさのために瑣末な点は切り捨てた結果でしょう。
とりあえず、ローマ史の導入として、とても面白い本です。できれば、第1巻から読むことをおすすめします。
10月14日 自宅で読了
★★★★☆
PR
Posted by l.c.oh - 2005.09.30,Fri
- 恩田 陸
- MAZE[メイズ]
中に入った人が数多く「消失」するという言い伝えのある、アジアの西の果てに立つ矩形の建物。この建物の「人間消失のルール」を解明していく長編ミステリーです。
小説としてはある程度楽しめました。畳み掛けるように展開する上、超常現象的なことが起こったりして、気持ち悪くて途中でやめられなくなり、結局一気に読んでしまいました。小川洋子モードになっていた僕の脳みそにはちょっとばかり刺激が強かったのかもしれません。
ミステリという括りで見ると、いわゆる「解答編」には3分の1くらいしか納得がいっていません(理解不能ではなく、気に食わないという意味です。)。ただ、最後の5ページほどが、食後のミントのように効いていて、読後感は少しだけ爽やか。
9月29日 自宅で読了。
おすすめ度:★★☆☆☆
Posted by l.c.oh - 2005.09.29,Thu
- 小川 洋子
- 余白の愛
初期の長編ですが、文章はかなり洗練され、雰囲気もかなり出来上がっている印象です。
内容については、帯の「記憶と現実が溶け合うとき」というのが本書のテーマを端的に突いていると思うので、詳しく触れる必要はないでしょう。
この小説の主人公は、突発性難聴という耳の病気を抱えています。この小説に限らず、小川氏は「病気」というものに強い関心を持っているようで、『完璧な病室』の弟や、『やさしい訴え』のチェンバロ製作者や、その他たくさんの病気の人が小説に登場します。『博士の愛した公式』の博士も確か病人です。で、小川氏はこの病との距離感が素敵です。正面の近い位置からぼんやりと眺めている感じで、負の感情も正の感情もあまり介在していない気がします。何というか、できてしまったものでも取り除くべきものでもなく、「ただそこに存在するもの」として捉えているような印象を受けます。うまく表現できませんが、個人的に好みにあった距離です。
もう一人の重要な登場人物のYは速記者です。小川氏の小説には一風変わった職業の人も多く出てきます。今回読んだ一連の本でも、ロシア語の翻訳家から博物館技師まで、実にさまざまな職業の人が出てきますが、いわゆるサラリーマンは全くと言って良いほど登場しません。小説になりにくいのかもしれませんが。
『余白の愛』自体の話をほとんどしていませんね。面白かったと思います。小川氏の静かでひんやりとした世界観が好みに合う方にはおすすめします。
9月29日 自宅で読了
★★★★☆
Posted by l.c.oh - 2005.09.28,Wed
- 小川 洋子
- 寡黙な死骸 みだらな弔い
連作短編集です。連作短編集というものはあまり読まないのですが、いや、これは面白かった。
全体を貫くテーマは「弔い」です。短編に登場する人たちは、それぞれの形で、失ってしまったとても大事なものを静かに弔っています。
さらに、それぞれの短編が、微かな接点によってネットワーク状に絡んでいきます。接点は洋菓子屋であったりベンガル虎であったり、うっかりしていると見逃してしまいそうな微かなものです。ネットワークは拡大していき、最終的に「完結」します。
まず、個々の短編のクオリティが高い。ちょっと目をひく設定から登場人物の心の動きまで、高々20ページに過不足なく収まっています。相変わらず日本語はきれいですし。背景は静かですが、『やさしい訴え』のようなしっとりとした静けさではなく、雑踏がわずかに聞こえるような街のやや乾いた静けさのような気がします。これが語られる物語によくマッチしています。
加えて、連作短編として、さらには一編の長編小説として読むこともできて、これも非常に楽しめる小説ではないかと思います。僕は、1回目は短編集として、2回目は長編小説として、2回とも小説を読む楽しさを味わいながら読みました。
おすすめします。
9月28日 自宅で読了
評価:★★★★★
Posted by l.c.oh - 2005.09.26,Mon
- 小川 洋子
- 完璧な病室
出世作「揚羽蝶が壊れる時」を含む初期の短編4編が収録されている作品集です。
3番目の「冷めない紅茶」を除くと、全体的に小難しい感じ。もっとえらそうなことを言うと、肩に力が入っている「ブンガクサクヒン」っていう感じ。特に、海燕新人文学賞をとった「揚羽蝶が壊れる時」は、読みやすい小説ではないと思います。
今日は、この本の後に読んだ『やさしい訴え』がヒットしてしまったので、比較してしまうと、どうしてもいまいちの印象になってしまいます。
9月26日 自宅で読了
おすすめ度:★★☆☆☆
Posted by l.c.oh - 2005.09.26,Mon
- 小川 洋子
- やさしい訴え
まず最初にお断りしておきます。僕は、身振り手振りを交えて盛んに主張するような小説や、わざとらしさが目に付く小説はあまり好きではありません。静かであまり語らない小説を好みます。特にテンションが低いときには、しっとりとした小説に静かに身を浸すのが最高の気分転換になります。
今日僕は、ちょっとへこみ気味でした。そして、この小説は、そのような状態の僕にとってはすばらしいタイミングで出てきました。
夫から逃れてきた女性、楽器が弾けなくなった元ピアノ弾きのチェンバロ製作者、婚約者を失ったチェンバロ製作者の助手の3人の不思議な関係を描いた物語です。三角関係といってしまうと俗っぽくなりますが、まぁ、そんな感じです。先取りしてしまうと、解説にある、「瑠璃子は新田氏にとって楽器だった。でも、薫さんは音楽そのものだ。」というのが3人の関係を的確に表現していると思います。
物語は淡々と進みます。単調だと感じる向きもあるかもしれません。でも、今日はいい具合に沁みたので、おすすめ度は満点をつけちゃいます。
9月26日 自宅にて読了
おすすめ度:★★★★★
Posted by l.c.oh - 2005.09.24,Sat
小川洋子初期の作品、裏表紙の紹介にも、文庫版解説にもあるように、「青春」小説です。
良くも悪くも若書きの印象です。ただ、多くの作家の初期の作品に見られるような熱さは感じられません。個人的にはあまり…。大学入ったころに読んだらもうちょっと違う感慨があったかもしれませんが。
9月23日自宅読了。
おすすめ度:★☆☆☆☆
Posted by l.c.oh - 2005.09.23,Fri
- 小川 洋子
- 沈黙博物館
博物館技師が、老婆の依頼により、ある村の死者の「形見」を展示する博物館を作る話です。
ちくま文庫なので危惧はしていましたが、案の定ちょっと読みづらいです。
外界から遮断された自己完結的な村という状況設定、そこから逃れられないという宿命じみたもの、世界観の温度の低さ、運命に従順な動物の存在、物語を語る形見の存在などの点で、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の「世界の終わり」に非常に強い近似性が感じられます。
ストーリーや世界観は非常に魅力的だと思います。僕、こういうの好きなんで。ただ、著者がテーマに強いこだわりを持っていたせいか、文章がちょっと粘着質な印象を受けました。結果として、文章の流れが滞りがちになり、読みづらい感じになってしまったように思います。ちょっと残念です。
追記:アマゾンのカスタマレビューを見たら、読みやすかったという意見が多いようですね。一般的に見て読みやすいのであれば、内容はおすすめですので、おすすめ度を訂正しておきます。
9月22日自宅で読了。
おすすめ度:★★★★☆
Posted by l.c.oh - 2005.09.20,Tue
- 小川 洋子
- 凍りついた香り
今日はこいつを読みました。
恋人を突然自殺で失ったフリーライターの女性(涼子)が、その恋人の記憶を探しにでかける物語です。
小川洋子の世界の静謐さがこの小説でも出ています。
この本も幻冬舎文庫版です。装丁は魅力的だと思いますが、やっぱり裏表紙の紹介文はあんまりうまくないですね。 「死者をたずねる謎解き」が強調されていますが、この物語の中心は、謎解きではないと思います。
自殺した恋人(弘之)は調香師で、自殺する前夜に涼子にオリジナルの香水をプレゼントしていました。その香りを手がかりに、弘之の記憶が少しずつ浮き上がってきます(この「弘之の記憶」は、涼子が持っている弘之の記憶ではなく、弘之が持っていた弘之の記憶です)。
なかなか面白い小説でした。この本の文章は、ミステリーのように、読者を引っ張っていく力があるように思います。今まで僕が読んだ小川洋子の本にはなかった傾向です。抽象的な言い方をすれば、「動」の文章で「静」の世界が表現されている、とでもいいますか。この感覚は、村上春樹に近いかもしれません。
なお、この本の中核的な謎は、最後まで解答が与えられません。この「解答が与えられない」という言葉(don`tの意味でもcannotの意味でも)が、本書の謎を解く鍵になるのではないかと思います。
あまりに抽象的な書評。これから読む人のために、本の内容にはなるべく踏み込みたくないのですが、内容に触れないと抽象的で意味不明な文章になってしまいます。まだまだですね。
9月19日自宅で読了
おすすめ度:★★★★☆
Posted by l.c.oh - 2005.09.19,Mon
- 小川 洋子
- ホテル・アイリス
小川洋子の本を少し買い込んだので、本の話はしばらく小川洋子だらけになります。文庫本だけなので、博士の愛した公式もブラフマンの埋葬もでてきませんが。
で、ホテル・アイリスを読みました。
離島に住む翻訳家の老人と、ある少女の奇妙な関係を描いた作品です。
好みの分かれる作品だと思います。
どうでもいいことをいくつか。まず、装丁がよろしくないですね。女性が裸で砂漠に立っている絵が表紙だと、本屋で買うのにはちょっと勇気がいります。あと、帯もよくない。「落伍者のための名作」という表現はどうでしょう。ついでに、裏表紙の紹介文もあまりよくない。「究極のエロティシズム!」とか手垢が3センチくらい積もったようなことを書かれると、逆に買う気をなくします。装丁や帯はさておき、この紹介文には幻冬舎文庫のセンスを疑います。
読ませる文章です。エロティシズムといっても、「徒に性欲を興奮又は刺激させ」るようなものではなく、性描写に全体が支配されないように、節度をわきまえた描写がなされているように思います。
雰囲気としては、純文学特有の静けさが全体に漂っています。イベントは起こりますが、それでも本からは全くといっていいほど音が聞こえません。小川洋子の作品は静かな作品が多いという印象があり、これもそのようなものの1つといえそうです。この辺が評価の分かれるところで、ジュンブンガクがあまり好きでない人には、温度の低さとか、やたらテクニカルな印象が強く現れるのではないかと思います。なので、万人受けする感じではありませんが、僕自身はこのような本も好きです。
9月19日自宅で読了
お勧め度:★★☆☆☆
僕が(一部)書いた本が出版されました
カレンダー
最新記事
プロフィール
HN:
l.c.oh
性別:
男性
職業:
法科大学院生
ブログ内検索
アーカイブ
リンク
最新CM
(01/18)
(01/17)
(02/14)
(02/14)
(01/14)
最新TB
カウンター
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
Powered by "Samurai Factory"