ブログ(仮)
Posted by l.c.oh - 2005.12.11,Sun
小田急訴訟について書いているのですが、なかなかうまく書けません。
さしあたり、僕の覚書的なものを出してみます。
続きを書けるのはいつになるかわかりませんが、次の国民審査には間に合わせたい(苦笑)
基本編
これから書きます。
応用編
事案の概要
平成6年5月に、小田急線の喜多見~梅ヶ丘の高架化工事について、(旧)建設大臣が東京都に認可を出しました。高架化される付近に住んでいる人たちが、「地下化すればよかったのに、騒音の激しい高架化で許可を出したのはおかしい」といって、この許可の取消を求めたのが今回の訴訟です。
鉄道が引かれる場所に土地を持っていない周辺住民が、この許可の裁判を求めることができるか(原告適格の有無)が1つの大きな争いになりました。なお、この訴訟で問題になった都市計画法の認可については、事業が施工される土地に権利を持っている人(つまり、今回の事件で言うなら、鉄道が引かれる場所に土地を持っている人)だけが原告適格を持つ、とした判決が平成11年にだされています。
裁判所の判断
平成11年の判断を変更して、周辺住民にも原告適格がある、と判断しました。
根拠としては、
都市計画法が環境への配慮を要求している
↓だとすると
環境への配慮について規定した法令として、旧公害対策基本法と、東京都環境影響評価条例(いわゆる「アセス」)の目的なども一緒に考慮すべき
↓
アセスでは、線路から1キロ以内くらいに住んでいる人への影響が考慮される
↓だとすると
都市計画法の認可にあたっても、この範囲に住んでいる人の騒音被害を考える必要がある
↓だから
この範囲に住んでいる人には、建設大臣が騒音被害をきちんと考えたかを争う資格を与える
という流れになっています。
解釈論(これでもごく概要。行政法を勉強したことのない人にはよく分からないでしょうが、僕自身の覚書のつもりで。)
原告適格について規定した行政事件訴訟法9条2項は、平成16年の改正で入ったものです。それ以前は1項だけでした。
行政事件訴訟法 第9条1項
処分の取消の訴え……は、当該処分……の取消を求めるにつき法律上の利益を有するもの……に限り提起することができる。
同2項
裁判所は、処分又は採決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質ならびにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。(平成16年追加、平成17年4月1日から施行)
9条2項は、処分等の相手方以外の人の原告適格を判断する際に考慮すべき事項を定めています。非常に長くて読みにくい規定ですが、大きく分けて2つのことを言っています。
① 行政処分など根拠法令の趣旨や目的を考慮すること
①´ ①を考慮するときには、目的が同じ他の法律も一緒に考慮すること
② 処分によって与えられたり侵害されたりする利益の内容や性質を考慮すること
②´ ②を考慮するときには、侵害される利益の状況も一緒に考慮すること
前提として、根拠法令の言葉だけで判断するのはダメ
9条1項の「法律上の利益」をめぐっては、2項がない時代からその解釈が争われていました。
学説としては2つの説が対立しています。1つは、法律上保護された利益説、もう1つは、法律上保護に値する利益説です。前者は、処分によって侵害される「利益を処分の根拠法規が保護している」(塩野117頁)場合に原告適格を認める考え方、後者は、「利益が法律によって保護されたもの」である場合に限らず、「事実上の利益でも」(同)原告適格を認める考え方です。前者よりも後者の方が原告適格が認められる範囲は広くなります。例えば、今回の訴訟では、純粋に前者の説を貫くと、都市計画法が、周辺住民が騒音を受けないという利益を保護していると考えることは難しいので、原告適格は認められないことになります。一方後者の説だと認められる可能性が大きいといえるでしょう。
これまでの裁判所の判断
裁判所は、「法律上保護された利益説」を採っていると言われてきました。しかし、この説を貫くと、実体判断をしないでいわゆる「門前払い」になる場合が多すぎて、国民の救済が十分でないことは古くから意識されています。そこで裁判所は、法律上保護された利益説を守った上で、原告適格を拡げる理屈をいろいろ考えてきました。結果として、法律上保護に値する利益説に接近しています。
しかし、どこまでいっても基本スタンスは法律上保護された利益説。裁判所は、原告適格を認めるのに慎重すぎる、という批判がありました。原告適格が認められない場合を、メディアではよく、「門前払い」と批判していました。
裁判所の考えた理屈のエッセンスが集約されたのが、新設の9条2項です。例えば、上記①´は新潟空港訴訟(最高裁平成元年2月17日判決、行政判例百選II.201事件)に由来しますし、②´はいわゆるもんじゅ訴訟(最高裁平成4年9月22日判決、行政判例百選II.202事件)に由来すると考えられます。その意味で、「改正法が全く新たな視点を提供したものではない」(塩野124頁)のです。
しかし、改正前は、常に9条2項の要素全てが考慮されていたわけではありません。これが、常に全て考慮されるようになったという点で意味があります。さらに、この改正は、国民の救済を実のあるものにしよう、というコンセプトでされたもので、9条2項の判断にあたっても、このコンセプトを尊重することが求められると考えられます。(塩野125頁)
今後の見通し
今回の判決は、「国民の権利救済」という9条2項のコンセプトを尊重して、平成11年の判例を変更しました。解釈としては、都市計画法の目的などに加えて、環境基本法や東京都の環境影響評価条例(「アセス」)の目的なども考慮しています。9条2項の規定振りに従ったものと言えるでしょう。
今回の事件は、法改正後、原告適格が問題になった初めての大きな訴訟だったため注目を集めました。最高裁判所が原告適格を拡げる方向で判断したため、今後都市計画法以外の事件でも、「門前払い」をやめる判断が出ることが予想され、メディアなどでも期待されているところです。
本稿は、塩野 宏行政法〈2〉行政救済法 PP.114-127、行政判例百選 (2) 201事件~204事件、212事件、及び交告教授の大学での講義を参考にして書きました。
さしあたり、僕の覚書的なものを出してみます。
続きを書けるのはいつになるかわかりませんが、次の国民審査には間に合わせたい(苦笑)
基本編
これから書きます。
応用編
事案の概要
平成6年5月に、小田急線の喜多見~梅ヶ丘の高架化工事について、(旧)建設大臣が東京都に認可を出しました。高架化される付近に住んでいる人たちが、「地下化すればよかったのに、騒音の激しい高架化で許可を出したのはおかしい」といって、この許可の取消を求めたのが今回の訴訟です。
鉄道が引かれる場所に土地を持っていない周辺住民が、この許可の裁判を求めることができるか(原告適格の有無)が1つの大きな争いになりました。なお、この訴訟で問題になった都市計画法の認可については、事業が施工される土地に権利を持っている人(つまり、今回の事件で言うなら、鉄道が引かれる場所に土地を持っている人)だけが原告適格を持つ、とした判決が平成11年にだされています。
裁判所の判断
平成11年の判断を変更して、周辺住民にも原告適格がある、と判断しました。
根拠としては、
都市計画法が環境への配慮を要求している
↓だとすると
環境への配慮について規定した法令として、旧公害対策基本法と、東京都環境影響評価条例(いわゆる「アセス」)の目的なども一緒に考慮すべき
↓
アセスでは、線路から1キロ以内くらいに住んでいる人への影響が考慮される
↓だとすると
都市計画法の認可にあたっても、この範囲に住んでいる人の騒音被害を考える必要がある
↓だから
この範囲に住んでいる人には、建設大臣が騒音被害をきちんと考えたかを争う資格を与える
という流れになっています。
解釈論(これでもごく概要。行政法を勉強したことのない人にはよく分からないでしょうが、僕自身の覚書のつもりで。)
原告適格について規定した行政事件訴訟法9条2項は、平成16年の改正で入ったものです。それ以前は1項だけでした。
行政事件訴訟法 第9条1項
処分の取消の訴え……は、当該処分……の取消を求めるにつき法律上の利益を有するもの……に限り提起することができる。
同2項
裁判所は、処分又は採決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質ならびにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。(平成16年追加、平成17年4月1日から施行)
9条2項は、処分等の相手方以外の人の原告適格を判断する際に考慮すべき事項を定めています。非常に長くて読みにくい規定ですが、大きく分けて2つのことを言っています。
① 行政処分など根拠法令の趣旨や目的を考慮すること
①´ ①を考慮するときには、目的が同じ他の法律も一緒に考慮すること
② 処分によって与えられたり侵害されたりする利益の内容や性質を考慮すること
②´ ②を考慮するときには、侵害される利益の状況も一緒に考慮すること
前提として、根拠法令の言葉だけで判断するのはダメ
9条1項の「法律上の利益」をめぐっては、2項がない時代からその解釈が争われていました。
学説としては2つの説が対立しています。1つは、法律上保護された利益説、もう1つは、法律上保護に値する利益説です。前者は、処分によって侵害される「利益を処分の根拠法規が保護している」(塩野117頁)場合に原告適格を認める考え方、後者は、「利益が法律によって保護されたもの」である場合に限らず、「事実上の利益でも」(同)原告適格を認める考え方です。前者よりも後者の方が原告適格が認められる範囲は広くなります。例えば、今回の訴訟では、純粋に前者の説を貫くと、都市計画法が、周辺住民が騒音を受けないという利益を保護していると考えることは難しいので、原告適格は認められないことになります。一方後者の説だと認められる可能性が大きいといえるでしょう。
これまでの裁判所の判断
裁判所は、「法律上保護された利益説」を採っていると言われてきました。しかし、この説を貫くと、実体判断をしないでいわゆる「門前払い」になる場合が多すぎて、国民の救済が十分でないことは古くから意識されています。そこで裁判所は、法律上保護された利益説を守った上で、原告適格を拡げる理屈をいろいろ考えてきました。結果として、法律上保護に値する利益説に接近しています。
しかし、どこまでいっても基本スタンスは法律上保護された利益説。裁判所は、原告適格を認めるのに慎重すぎる、という批判がありました。原告適格が認められない場合を、メディアではよく、「門前払い」と批判していました。
裁判所の考えた理屈のエッセンスが集約されたのが、新設の9条2項です。例えば、上記①´は新潟空港訴訟(最高裁平成元年2月17日判決、行政判例百選II.201事件)に由来しますし、②´はいわゆるもんじゅ訴訟(最高裁平成4年9月22日判決、行政判例百選II.202事件)に由来すると考えられます。その意味で、「改正法が全く新たな視点を提供したものではない」(塩野124頁)のです。
しかし、改正前は、常に9条2項の要素全てが考慮されていたわけではありません。これが、常に全て考慮されるようになったという点で意味があります。さらに、この改正は、国民の救済を実のあるものにしよう、というコンセプトでされたもので、9条2項の判断にあたっても、このコンセプトを尊重することが求められると考えられます。(塩野125頁)
今後の見通し
今回の判決は、「国民の権利救済」という9条2項のコンセプトを尊重して、平成11年の判例を変更しました。解釈としては、都市計画法の目的などに加えて、環境基本法や東京都の環境影響評価条例(「アセス」)の目的なども考慮しています。9条2項の規定振りに従ったものと言えるでしょう。
今回の事件は、法改正後、原告適格が問題になった初めての大きな訴訟だったため注目を集めました。最高裁判所が原告適格を拡げる方向で判断したため、今後都市計画法以外の事件でも、「門前払い」をやめる判断が出ることが予想され、メディアなどでも期待されているところです。
本稿は、塩野 宏行政法〈2〉行政救済法 PP.114-127、行政判例百選 (2) 201事件~204事件、212事件、及び交告教授の大学での講義を参考にして書きました。
PR
Comments
Post a Comment
僕が(一部)書いた本が出版されました
カレンダー
最新記事
プロフィール
HN:
l.c.oh
性別:
男性
職業:
法科大学院生
ブログ内検索
アーカイブ
リンク
最新CM
(01/18)
(01/17)
(02/14)
(02/14)
(01/14)
最新TB
カウンター
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
Powered by "Samurai Factory"
