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Posted by l.c.oh - 2005.09.08,Thu
 昨日に引き続いて薬害エイズがらみの判決です。取り上げるのは、平成17年6月16日に出された、名誉毀損に関するものです。


何が問題になったか
 後からよく調べたところ本当ではなかった事実について雑誌等に掲載してしまったが、書いた人が本当だと思ったことに理由があった場合、不法行為は成立しない。このケースではそのような場合に当たるか。


裁判所の判断
当たる

才口千晴裁判官→当たる(裁判長)


詳細(といっても、できるだけ簡単に)

 このケースは、事実関係が問題になったものです。5日の文で、最高裁判所では事実関係は争えない、と書いてしまいましたが、これは一般論であって、「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある」場合には、最高裁判所が取り上げることもあります。

事実関係
 ジャーナリストのBさんは、薬害エイズ問題に絡んで、「安倍氏とS社が結託して加熱製剤の承認を遅らせた」という記事を書きました。ところが、これは本当ではありませんでした(実際に「本当でない」のかはよくわからないのですが、裁判所は、証拠や証人の証言を検討した結果、「本当だ」ということを認めませんでした。)。
 Bさんが記事を書いた根拠は、安倍氏が新聞社のインタビューに答えたものなどです。内容は、血液製剤で大きなシェアを持っていたが加熱製剤の開発が遅れていたので通例に従って他の会社の加熱製剤の承認を「調整」したこと、安倍氏がS社に寄付金を募っていたことを否定しなかったことなどです。
 安部氏がBさんを名誉毀損による賠償金を求めて訴えたのがこの事件です。

法律
 3つの段階に分けて考えます。

 民法709条は、「故意または過失によって他人の権利」を侵害した場合(不法行為といいます。)、損害を賠償しなければならないと定めています。名誉毀損が不法行為になることは問題ありません。この場合の侵害される権利は、相手の社会的な評価だと考えられています。(これが第1段階です。)

 ただ、社会的な評価が低下したとしても、常に不法行為になるわけではありません。最高裁判所は、本当のことを言ったにすぎない場合には、相手の社会的な評価が下がっても、ある条件がそろうと不法行為にならないと考えています(昭和41年6月23日の判決で明らかにされた考えです。)。その条件とは、①言ったことが社会全体の利害に関係するもので、②言った人は、社会のためを思って言ったこと、③言ったことが本当だと裁判所が認めること、の3つです(刑法の名誉毀損罪では、昭和22年以来、この3つの条件が法律で定められています。刑法230条の2に規定があります。)。これは、本当のことを言って下がるような社会的な評価は張子の虎なのだから、プライバシー侵害にならないような場合には不法行為にしないようにしよう、という考慮に基づくものです。(これが第2段階。)

 この事件で問題になったのは③の条件です(①と②は認められています。)。Bさんは、書いた記事の内容が本当だということを主張したのですが、裁判所は納得しませんでした(③の条件を満たさない)。そうなるとBさんのしたことは不法行為になります。
 しかし、裁判になった時点で裁判所を納得させられなかったとしても、記事を書いた時点では、Bさんが書いた記事を本当だと考えたのがやむをえない場合があります。このような場合、Bさんは、社会のためを思って、本当のことを書いたと思っているので、名誉毀損にはならないと思っています。これを不法行為としてしまうのはちょっと可哀想です。そこで、最高裁判所は、本当のことだと考えたことに十分な理由がある(これは、一般人の感覚で判断します。書いた人の思い込みによる場合を除くためです。)場合に、不法行為にならないことを認めています。これも上に書いた昭和41年の判決で明らかにされた考えで、学者の皆さんもこれを支持しています。(これが第3段階。)

 この事件では、この第3段階、Bさんが、「安倍氏とS社が結託して云々」ということを本当だと信じたことに十分な理由があったかどうかが争われました(事実関係についての争いです。)。高等裁判所では、十分な理由はなかったとして、不法行為になると認め、Bさんに賠償金の支払いが命じられました。

最高裁判所の判断
 前述の第3段階の点については、最高裁判所の考え方は完全に固まっていて、これが変更される可能性はほとんどないといってよいでしょう。
 最高裁判所は、新聞の安倍氏に対するインタビューなどの証拠を元に、Bさんが「安倍氏とS社が結託して云々」ということを本当だと信じたのは十分な理由があった、と判断しました。

 才口裁判官は、裁判長としてこのような判断をした、ということになります。


なぜこの判決を取り上げたかを書きます。
 上で書いたようなことは、公報に、「…雑誌記事等の執筆者がその記事等に摘示されている事実を真実であると信じたことには相当の理由があるとして…」と書かれています。これを見た知人が、何を言っているのかさっぱりわからない、と言っていました。確かに、法律の勉強をしたことがない人がこれをみてもほとんど分からないでしょう。実際、法律を勉強する上でも、そもそも何が問題なのか、なかなか分かりにくい問題の1つです。これは、不法行為になる・ならないというベクトルの向きが段階ごとに何度も替わることが原因だと思います。
 国民審査特集をしようと思ったのは、この判決を、できるだけわかりやすく書いてみようと思ったことがきっかけです。分かるようにかけたかどうかは自分ではわかりません。でも、これで公報に書かれた文の意味が分かる人が少しでもいるとすれば、それ以上の喜びはありません。




 僕の能力からすると、公報などに載っている判決を取り上げるのはそろそろ限界のようです。要はネタ切れです。明日は、適当な判決が見つかったらぜひ書きたいと思いますが、何も書けないかもしれません。

 国民審査に関係して、何か疑問に思っている点などありましたら、ぜひコメントをお寄せください。明日取り上げようと思いますm(_ _)m
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