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Posted by l.c.oh - 2005.10.07,Fri

柳 美里

石に泳ぐ魚


 柳美里の「話題作」。柳美里の本は、『家族シネマ』と『ゴールドラッシュ』しか読んだことがないのですが、それらと同じく、強い負のエネルギーが内心に向かって凝縮されたような本という印象をうけました。

 この本は、戦後日本で、文芸作品として初めて出版の差し止めが認められた本です。主人公の親友として登場する「朴里花」のモデルとされる人が、自分の顔面の描写等について名誉毀損の訴えを起こして認められたためです。
 この裁判は、作者が日本を代表する作家であったこと、事前差し止めという厳しい措置が地方裁判所レベルから一貫して認められたことなどから、法律の世界では非常に話題になった裁判です。今回文庫化された本は、裁判の過程で提出された、顔面の描写等をマイルドにした改訂版です(帯にある「言葉は葬られた」というのはそういうことです。)。
 出版の差し止めについては、憲法や裁判所は非常に慎重です。なぜなら、出版されないということは世間の目に触れないということになるので、 いいか悪いか批評する余地がなくなってしまうからです。すなわち、国家による言論統制につながる可能性があります(明治時代にはそうなっていました。)。憲法の保障する表現の自由は、この言論統制を防止するという意図もあるのです。
 そこで、出版差し止めが認められるためには、いったん公表されてしまうと、被害者に重大で回復困難な被害が生じる場合に限られます。この本では、プライバシーの侵害と表現の自由がぶつかったわけですが、裁判所はプライバシーを勝たせ、出版差し止めを認めました。表現の自由とプライバシーとは、ある意味、一般的な利益と個別的な利益の関係に立ちます。裁判所は、個別的な利益をより重視した、と見ることができそうです。
 裁判所がした議論はある程度説得力がありますし、事前差し止めに関する裁判所の論理から演繹的に結論を出すとすると、結論にも納得がいくところです。ただ、一読者としてみると、削除された部分がなくなってしまったことは、この本の価値を少なからず損なっているようで、残念でもあります。

 本自体の話をほとんど書いていませんね。全体に、重い雲に塗りこめられた空のような小説です。構成や日本語はよくできているので、読みにくい本ではありませんが、法的な議論もあいまって、いろいろ考えさせられる小説でした。

10月7日 出先で読了。
おすすめ度:★★☆☆☆
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