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Posted by l.c.oh - 2005.10.11,Tue
 死刑について、重要な最高裁判所の判断を忘れていたので、懲りずに書くことにします。

 死刑は普通、憲法36条との関係で議論されます。

憲法36条
 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。


 法の解釈で、死刑が「残虐な刑罰」にあたるかが問題になるのです。

 これについて、最高裁判所は、憲法施行間もない昭和23年に有名な判断を出しています(昭和23年3月12日大法廷判決憲法判例百選 (2) 262頁。本稿は、この判例百選の解説に依拠しています。)。
 この判決は、冒頭で、「生命は尊貴である。一人の生命は、全地球よりも重い。死刑は…まことにやむを得ざるに出ずる窮極の刑罰である。」として、死刑を否定するような論調で始まりますが、結論としては死刑を合憲と判断しています。人一人が国家によって確実に死ぬのですから、それなりの根拠(判例百選の解説は、「反論の余地がないほど合理的で明確な根拠が要求されよう」としています。)が必要になりますが、最高裁判所は、根拠として、1.「死刑の威嚇力によ」る「一般予防」、2.「特殊な社会悪の根元を絶」つこと、3.国民感情(3.は主に補足意見)の3つをあげています。

 以前どこかで書いたかもしれませんが、日本を含め憲法は、個人の尊重と国家への不信をその一番基本においています。そこで、国家により個人が侵害される死刑のような場合には、慎重な態度がとられています。そこで、死刑の存続には、それを残すことが必要やむをえないという理由が必要です。その理由として、最高裁判所は上記の3つをあげたと言えます。

 まず1については、死刑に威嚇力による一般予防効果(=死刑になるぞ、と国民を脅すことで、犯罪を抑える力)があるかどうかはあまりはっきりしません。国内外含め、特に統計的な手法を用いて多くの研究がされていますが、多くは死刑による抑止力なし、という結論に至っているようです。「数多くの研究にも関わらず、死刑の抑止力は証明されていないことは、少なくとも確かである(判例百選II 263頁)」というのが現実のようです。したがって、これは死刑存続論の根拠にはなりにくいといえます。

 2については、最高裁判所はこれを死刑存続論の根拠として持ち出しています。
 一方、判例百選の解説は「無期刑によって目的を達しうる」としか述べていません。
 しかし、「無期刑によって目的を達しうる」という主張にはちょっと疑問があります。「特殊な社会悪の排除」という観点から見ると、無期刑に死刑と同等の効果を求めるためには、仮出獄なしの無期刑(どんなことがあっても死ぬまで刑務所から出られない)を用意する必要があります(アメリカなどでは例があるようですが、今の日本にはありません。)。このように刑務所で生殺しの状態で生きながらえるのと、死刑になるのとでは、どちらが「残虐な刑罰」であるか、微妙ではないかと僕は思います。刑務所の収容人員の限界や、財政的な問題もあります。このように考えると、「無期刑でいいじゃん」という主張は死刑廃止論の根拠としても弱いと思います。
 「特殊な社会悪の排除」が死刑存続論の根拠になるかどうかは、それを確保する手法で死刑よりも残虐でない刑罰が考えうるか、という点にかかってきます。ただ、代替的な案が考えられており、それと死刑が(僕が考えるところ)あまり差がないと思われる以上、積極的に死刑を肯定する根拠としては、強く主張しにくいところです。

 3.の国民感情というのは、扱いが非常に難しいものです。世論調査によれば、死刑存続を支持する声が強いのは確かなようです。ただ、法律家たるもの、国民の多数決に従えばいいというものではありません。確かに、国民の多数意見というのは最も重要な道しるべになります。しかし、歴史的に多数派による少数派の侵害の例が非常に多かったこと(枚挙に暇がありませんが、時代的に近い例で言えば、一応民主主義国であったドイツでナチスがユダヤ人になしたことを思い出していただくとよいでしょう)の反省に基づいて、憲法は少数派の人権保護も重要な役目としています(この項との関連で言うならば、被告人の人権保護になるでしょうか。)。その担い手は、やはり法律家なのだと僕は思っています。
 要は多数派と少数派の間でどのような位置を自分が取るかのバランス感覚の問題だと思いますが、このように考えると、死刑存続を支持する世論が強いというだけでは、死刑存続論の法的な根拠にはなりにくいと思います。

 結局、昭和23年判決の最高裁判所の論理は、死刑存続を認める根拠としては弱い、というのが僕の結論です。


 この判決以後、死刑囚の冤罪事件の発生や国際的な死刑廃止の潮流の中で、世論においても死刑廃止論が非常に強く主張された時期がありました。
 一方最近は、犯罪被害者の感情を法的に評価しようという新しい視点も提示されており、自分の判断にどのように反映させるべきか苦慮しています。
 例によって、判断は留保です。
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