ブログ(仮)
Posted by l.c.oh - 2005.10.03,Mon
事実については、おそらく説明の必要がないでしょう。小泉首相が靖国神社を繰り返し参拝したことが、憲法に違反するかが問題になった事件です。
靖国裁判においては、違憲判決をとるためにハードルが2つ、さらに、裁判所が憲法についての判断を出してくれる前提として1つハードルがあります。前者は、
1.内閣総理大臣の参拝が公的なものであるか
2.これが憲法に違反するか
というもので、後者は
3.憲法判断はなるべく避けるべきだ、という原則に引っかからないか
というものです。1.と2.は憲法の解釈という実体法の問題、3.は憲法訴訟という手続法の問題という整理ができます。
以下、順にみてみましょう。
1.について
まずは、憲法の規定です。
憲法20条3項
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない
ここで宗教的な行為が禁止されているターゲットは、「国及びその機関」です。言い方を変えれば、公的な機関が宗教的な行為をすることだけが禁止されています。もし個人であれば、宗教に関することも基本的に自由にできます。私的な行為であれば、憲法には引っかからないのです。
そこで、首相が靖国神社に参拝することが、「国の機関」が行った行為だと言えるかが問題になってきます。首相の完全に個人的な宗教的行為であれば、問題にはなりません。例えば、首相が近所の神社に家族と初詣に行ったからといって、憲法違反にはならない、というのは、常識的な考えだといえるでしょう。「国の機関」が行ったかどうかは、参拝が、内閣総理大臣の仕事として行われた(いわゆる公式参拝)かどうかによります。
小泉首相は、参拝が公的なものであるか私的なものであるかを明言してはいませんでした。しかし、大阪高等裁判所は公的な参拝であるとしました。これは、高等裁判所のレベルでは初めての判断です。理由は、公用車を使い秘書官を連れていたこと、公約の実行としてされたという点で政治的な意図が強いことなどが挙げられています。
なお、前日(9月29日)に出された東京高等裁判所の判決では、献花のお金は私費から出ていること、終戦記念日を避けているため政治的な意図は小さいことなどを根拠に、個人的にしたことだから「国の機関」が行ったことではない、として、憲法に違反しないという判断をしています。この点について、最高裁判所の判断はまだありません。
2.について
もう一度憲法の規定を見てみましょう。
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない
憲法をそのまま読むと、国が宗教に関係することが全くできないように思えます。しかし、国と宗教との関係を完全にゼロにすることは不可能です。例として私立学校への補助金を考えてみると、国と宗教との関係をゼロにするために、上智大学のように宗教団体が作った学校に補助金を出さないとなると、今度は憲法14条(法の下の平等)違反になってしまいます。
そこで、憲法で禁止されているのは、国と宗教との関わりがある程度濃いものだけだ、と考えられています。どの程度までが禁止されているかは学者の間でも争いがあります。最高裁判所は、国がした行為の「目的が宗教的意義をもち」、その行為の結果、特定の「宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような」ものが禁止されていると考えています(津地鎮祭事件大法廷判決、昭和52年7月13日)。目的と効果を考えているので、「目的・効果基準」と呼ばれます。例えば、この津地鎮祭の場合、地鎮祭は社会の習慣になっているという意味で「目的が宗教的意義をもつ」わけではないし、取り立てて神道の普及にプラスの影響を持たず、他の宗教を弾圧する効果もない、ということで、憲法違反にはされませんでした。
そして今回のケースです。大阪高等裁判所はまず、靖国神社の儀式の形式に従って参拝がなされた点などから、目的を「宗教的意義」があるものと認めました。さらに、国内外の強い批判の中で、強固な意思に基づいて参拝している点などをとらえ、国と靖国神社のみに特別の関係があるような印象を与えたとし、効果が特定の「宗教を助長、促進」するものだと認めました。結果として、小泉首相の靖国神社参拝は憲法違反だという結論になったわけです。
今までの裁判ではそもそも②の点についての判断に踏み込んだものはほとんどない(1.や3.で切られてしまって、この判断までたどり着かないものが多い)のですが、憲法違反(またはその疑いが強い)とする判決は高等裁判所のレベルでも結構出ていました(中曽根首相の公式参拝について、やはり大阪高等裁判所が平成4年に同様の判決を出しています。)。ただ、小泉首相の参拝については、今まで高裁レベルで2.の判断をしたものがなかったので、今回メディアに大きく取り上げられたのです。
2.についても、最高裁判所の判断はまだありません。判断が待たれるところです。
結構な分量になってしまったので、今日はこれくらいにしましょう。3.についてはまた明日。
靖国裁判においては、違憲判決をとるためにハードルが2つ、さらに、裁判所が憲法についての判断を出してくれる前提として1つハードルがあります。前者は、
1.内閣総理大臣の参拝が公的なものであるか
2.これが憲法に違反するか
というもので、後者は
3.憲法判断はなるべく避けるべきだ、という原則に引っかからないか
というものです。1.と2.は憲法の解釈という実体法の問題、3.は憲法訴訟という手続法の問題という整理ができます。
以下、順にみてみましょう。
1.について
まずは、憲法の規定です。
憲法20条3項
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない
ここで宗教的な行為が禁止されているターゲットは、「国及びその機関」です。言い方を変えれば、公的な機関が宗教的な行為をすることだけが禁止されています。もし個人であれば、宗教に関することも基本的に自由にできます。私的な行為であれば、憲法には引っかからないのです。
そこで、首相が靖国神社に参拝することが、「国の機関」が行った行為だと言えるかが問題になってきます。首相の完全に個人的な宗教的行為であれば、問題にはなりません。例えば、首相が近所の神社に家族と初詣に行ったからといって、憲法違反にはならない、というのは、常識的な考えだといえるでしょう。「国の機関」が行ったかどうかは、参拝が、内閣総理大臣の仕事として行われた(いわゆる公式参拝)かどうかによります。
小泉首相は、参拝が公的なものであるか私的なものであるかを明言してはいませんでした。しかし、大阪高等裁判所は公的な参拝であるとしました。これは、高等裁判所のレベルでは初めての判断です。理由は、公用車を使い秘書官を連れていたこと、公約の実行としてされたという点で政治的な意図が強いことなどが挙げられています。
なお、前日(9月29日)に出された東京高等裁判所の判決では、献花のお金は私費から出ていること、終戦記念日を避けているため政治的な意図は小さいことなどを根拠に、個人的にしたことだから「国の機関」が行ったことではない、として、憲法に違反しないという判断をしています。この点について、最高裁判所の判断はまだありません。
2.について
もう一度憲法の規定を見てみましょう。
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない
憲法をそのまま読むと、国が宗教に関係することが全くできないように思えます。しかし、国と宗教との関係を完全にゼロにすることは不可能です。例として私立学校への補助金を考えてみると、国と宗教との関係をゼロにするために、上智大学のように宗教団体が作った学校に補助金を出さないとなると、今度は憲法14条(法の下の平等)違反になってしまいます。
そこで、憲法で禁止されているのは、国と宗教との関わりがある程度濃いものだけだ、と考えられています。どの程度までが禁止されているかは学者の間でも争いがあります。最高裁判所は、国がした行為の「目的が宗教的意義をもち」、その行為の結果、特定の「宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような」ものが禁止されていると考えています(津地鎮祭事件大法廷判決、昭和52年7月13日)。目的と効果を考えているので、「目的・効果基準」と呼ばれます。例えば、この津地鎮祭の場合、地鎮祭は社会の習慣になっているという意味で「目的が宗教的意義をもつ」わけではないし、取り立てて神道の普及にプラスの影響を持たず、他の宗教を弾圧する効果もない、ということで、憲法違反にはされませんでした。
そして今回のケースです。大阪高等裁判所はまず、靖国神社の儀式の形式に従って参拝がなされた点などから、目的を「宗教的意義」があるものと認めました。さらに、国内外の強い批判の中で、強固な意思に基づいて参拝している点などをとらえ、国と靖国神社のみに特別の関係があるような印象を与えたとし、効果が特定の「宗教を助長、促進」するものだと認めました。結果として、小泉首相の靖国神社参拝は憲法違反だという結論になったわけです。
今までの裁判ではそもそも②の点についての判断に踏み込んだものはほとんどない(1.や3.で切られてしまって、この判断までたどり着かないものが多い)のですが、憲法違反(またはその疑いが強い)とする判決は高等裁判所のレベルでも結構出ていました(中曽根首相の公式参拝について、やはり大阪高等裁判所が平成4年に同様の判決を出しています。)。ただ、小泉首相の参拝については、今まで高裁レベルで2.の判断をしたものがなかったので、今回メディアに大きく取り上げられたのです。
2.についても、最高裁判所の判断はまだありません。判断が待たれるところです。
結構な分量になってしまったので、今日はこれくらいにしましょう。3.についてはまた明日。
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