ブログ(仮)
Posted by l.c.oh - 2005.09.15,Thu
では、14日に出された大法廷判決について見てみましょう。
なお、次回の国民審査の対象になる人はいませんので、国民審査には直接は関係がありません。それから、着任間もない古田裁判官は関係していません。念のため。
何が問題になったか
①外国に住んでいる日本人に選挙をさせないという法律は憲法に違反しないか。
②「次の選挙のときに外国にいる日本人が投票できる」という地位の確認を求める裁判ができるか。
③国会が法律を改正しなかったという不作為を理由にして、賠償金が取れるか。
裁判所の判断
①違反する(賛成12対反対2)
②できる(賛成12対反対2)
③取れる(賛成11対反対3)
詳細
今回の裁判では、①の判断が最も重要な判断であり、争った人が最も欲しかったものだと思います。ただ、①の判断をもらうためには、まず②が認められる必要があります(詳細は来週、かな。)。この裁判で一番争いになったのは②の点のようですし、高等裁判所も②が認められないという理由で、①については判断していません。
③は、ある意味②が認められなかった場合の保険のようなものです。ただ、ここでも非常に重要な判断がされています。
事実関係
選挙の方法などについて定めているのは、「公職選挙法」という法律です。以下では、「公選法」と書きます。
この事件で想定されている「外国に住んでいる日本人」は、仕事の都合などで、ある程度長期にわたって海外に暮らしている人です。およそ70万人といわれています。このような人たちは、住民票なども海外に持っていってしまうことが多いようです。
i)平成10年以前
公選法では、選挙をするには、日本国内の市町村に住民票がおいてあることが条件になっていました。しかし、外国に住んでいる日本人は、日本国内には住民票がありません。ですから、衆議院も参議院も一切投票ができませんでした。これは、世界中の大使館などに投票所を設けるのは大変だから、という理由付けがされていました。
これを改正しようという動きは結構昔からありました。昭和59年には、改正案も作られ、国会に提出されています。しかし、何に巻き込まれたのか、本格的な審議は行われないまま廃案になってしまいました。これ以降、平成10年に公選法が改正されるまで、目立った動きはありませんでした。
ii)平成10年以降
平成10年についに公選法が改正されて、「在外選挙人名簿」が作られることになりました。外国に住んでいる日本人が大使館などに行ってこの名簿に登録してもらうと、投票ができる、という仕組みです。しかし、投票が認められたのは比例代表だけで、小選挙区は投票が認められませんでした。これは、候補者個人についての情報が外国にいる日本人には届かないから、という理由付けがされていました。
このような扱いが、憲法に違反しないかが問題になりました。
とりあえず、①についてのみ扱います。
法律
憲法14条は法の下の平等を定めています。また、憲法15条は1項で、公務員を選ぶことは国民の権利であるということを宣言し、3項で、成人による普通選挙を保障しています。ここから、日本国籍を持っている人が選挙権を保証されていることは、ほとんど争いようのないことです。
一方、よっぽどの理由がある場合は、選挙権を与えないことも認められています。例えば、選挙のときに不正をはたらいた人は、一定期間投票をすることができないことになっています。このような人が選挙に参加すると、選挙が公正にできなくなってしまうからです。
さらに、「よっぽどの理由」があるかどうかは、基本的に国会が判断することになっています。これは、憲法47条が、選挙に関することは法律で定める、としていることが根拠です。法律を作るのは国会ですので、選挙に関すること(選挙権を制限する場合はどういう場合かなど)は国会が決める権限がある、というわけです。
ただ、いくら国会が決められるとしても、国会が決めた(または決めない)ことが明らかにおかしい場合で、それがずっと直されないままのときは、裁判所が何とかする場合もあります。
裁判所の判断
i)平成10年以前の部分について
裁判所は、
選挙権を制限するだけのよっぽどの理由はなかった
→選挙権を制限したのは憲法違反
と判断しました。
上述のように、世界中に投票所を設けるのは大変だから、というのが、国会が考えた「よっぽどの理由」でした。しかし、実際に投票所を用意するのは政府で、その政府は昭和59年の段階で外国に住んでいる日本人にも選挙権を与えるという改正案を国会に出しています。遅くとも昭和59年には、政府が、「投票所は用意できるぞ」と考えていたこと分かります。裁判所は、「政府ができるといっているのに、それを国会が10年以上も放っておいたというのは、明らかに国会の怠慢だ」として、憲法違反の判断をしました。
ii)平成10年以降の部分について
裁判所は、ここについても、
選挙権を制限するだけのよっぽどの理由はなかった
→選挙権を制限したのは憲法違反
と判断しました。
この場合、国会が考えた「よっぽどの理由」は、短い選挙期間の間に、候補者個人についての情報をきちんと届けるのが非常に難しい、ということです。しかし、通信手段がすごい勢いで発達しているのに、情報を届けるのが難しいというのはおかしな話だといえます。また、参議院選挙の比例代表では、候補者個人の名前を書くのが原則(非拘束名簿式といわれるやつですね)になっているので、これを小選挙区と区別する理由が乏しいともいえます。裁判所はこの2つの理由によって、憲法違反という判断をしました。
法律が憲法違反であると判断されたのは、憲法施行60年近い歴史のなかで、7件目です。
これに対し、上田豊三・横尾和子の2裁判官は、国会が考えた「よっぽどの理由」はそれぞれ納得できるものだから、憲法に違反しない、という反対意見を述べています。
今後の対応
政府は、次の通常国会で公選法を改正し、外国に住んでいる日本人も小選挙区に投票できるようにするとしています。
メディアの評価
おおむね好意的に評価されているようです。
僕のソースは基本的に新聞しかないのですが、多くの一般紙が1面トップと社説(ネット上で社説が確認できたいわゆる大手新聞社は全て)で取り上げています。
多くの記事は、判決を簡単に紹介した上で、妥当な判決であるとし、最終的に政府・国会に迅速な対応を求めています。
②と③の部分については、法技術的になってしまって難しいので、とりあえず触れないことにします(実はこっちのほうが画期的な判断だったりするのですが。)。難しい話を解きほぐす時間ができたら、書きたいと思っていますが、おそらく来週以降になるでしょう。
なお、次回の国民審査の対象になる人はいませんので、国民審査には直接は関係がありません。それから、着任間もない古田裁判官は関係していません。念のため。
何が問題になったか
①外国に住んでいる日本人に選挙をさせないという法律は憲法に違反しないか。
②「次の選挙のときに外国にいる日本人が投票できる」という地位の確認を求める裁判ができるか。
③国会が法律を改正しなかったという不作為を理由にして、賠償金が取れるか。
裁判所の判断
①違反する(賛成12対反対2)
②できる(賛成12対反対2)
③取れる(賛成11対反対3)
詳細
今回の裁判では、①の判断が最も重要な判断であり、争った人が最も欲しかったものだと思います。ただ、①の判断をもらうためには、まず②が認められる必要があります(詳細は来週、かな。)。この裁判で一番争いになったのは②の点のようですし、高等裁判所も②が認められないという理由で、①については判断していません。
③は、ある意味②が認められなかった場合の保険のようなものです。ただ、ここでも非常に重要な判断がされています。
事実関係
選挙の方法などについて定めているのは、「公職選挙法」という法律です。以下では、「公選法」と書きます。
この事件で想定されている「外国に住んでいる日本人」は、仕事の都合などで、ある程度長期にわたって海外に暮らしている人です。およそ70万人といわれています。このような人たちは、住民票なども海外に持っていってしまうことが多いようです。
i)平成10年以前
公選法では、選挙をするには、日本国内の市町村に住民票がおいてあることが条件になっていました。しかし、外国に住んでいる日本人は、日本国内には住民票がありません。ですから、衆議院も参議院も一切投票ができませんでした。これは、世界中の大使館などに投票所を設けるのは大変だから、という理由付けがされていました。
これを改正しようという動きは結構昔からありました。昭和59年には、改正案も作られ、国会に提出されています。しかし、何に巻き込まれたのか、本格的な審議は行われないまま廃案になってしまいました。これ以降、平成10年に公選法が改正されるまで、目立った動きはありませんでした。
ii)平成10年以降
平成10年についに公選法が改正されて、「在外選挙人名簿」が作られることになりました。外国に住んでいる日本人が大使館などに行ってこの名簿に登録してもらうと、投票ができる、という仕組みです。しかし、投票が認められたのは比例代表だけで、小選挙区は投票が認められませんでした。これは、候補者個人についての情報が外国にいる日本人には届かないから、という理由付けがされていました。
このような扱いが、憲法に違反しないかが問題になりました。
とりあえず、①についてのみ扱います。
法律
憲法14条は法の下の平等を定めています。また、憲法15条は1項で、公務員を選ぶことは国民の権利であるということを宣言し、3項で、成人による普通選挙を保障しています。ここから、日本国籍を持っている人が選挙権を保証されていることは、ほとんど争いようのないことです。
一方、よっぽどの理由がある場合は、選挙権を与えないことも認められています。例えば、選挙のときに不正をはたらいた人は、一定期間投票をすることができないことになっています。このような人が選挙に参加すると、選挙が公正にできなくなってしまうからです。
さらに、「よっぽどの理由」があるかどうかは、基本的に国会が判断することになっています。これは、憲法47条が、選挙に関することは法律で定める、としていることが根拠です。法律を作るのは国会ですので、選挙に関すること(選挙権を制限する場合はどういう場合かなど)は国会が決める権限がある、というわけです。
ただ、いくら国会が決められるとしても、国会が決めた(または決めない)ことが明らかにおかしい場合で、それがずっと直されないままのときは、裁判所が何とかする場合もあります。
裁判所の判断
i)平成10年以前の部分について
裁判所は、
選挙権を制限するだけのよっぽどの理由はなかった
→選挙権を制限したのは憲法違反
と判断しました。
上述のように、世界中に投票所を設けるのは大変だから、というのが、国会が考えた「よっぽどの理由」でした。しかし、実際に投票所を用意するのは政府で、その政府は昭和59年の段階で外国に住んでいる日本人にも選挙権を与えるという改正案を国会に出しています。遅くとも昭和59年には、政府が、「投票所は用意できるぞ」と考えていたこと分かります。裁判所は、「政府ができるといっているのに、それを国会が10年以上も放っておいたというのは、明らかに国会の怠慢だ」として、憲法違反の判断をしました。
ii)平成10年以降の部分について
裁判所は、ここについても、
選挙権を制限するだけのよっぽどの理由はなかった
→選挙権を制限したのは憲法違反
と判断しました。
この場合、国会が考えた「よっぽどの理由」は、短い選挙期間の間に、候補者個人についての情報をきちんと届けるのが非常に難しい、ということです。しかし、通信手段がすごい勢いで発達しているのに、情報を届けるのが難しいというのはおかしな話だといえます。また、参議院選挙の比例代表では、候補者個人の名前を書くのが原則(非拘束名簿式といわれるやつですね)になっているので、これを小選挙区と区別する理由が乏しいともいえます。裁判所はこの2つの理由によって、憲法違反という判断をしました。
法律が憲法違反であると判断されたのは、憲法施行60年近い歴史のなかで、7件目です。
これに対し、上田豊三・横尾和子の2裁判官は、国会が考えた「よっぽどの理由」はそれぞれ納得できるものだから、憲法に違反しない、という反対意見を述べています。
今後の対応
政府は、次の通常国会で公選法を改正し、外国に住んでいる日本人も小選挙区に投票できるようにするとしています。
メディアの評価
おおむね好意的に評価されているようです。
僕のソースは基本的に新聞しかないのですが、多くの一般紙が1面トップと社説(ネット上で社説が確認できたいわゆる大手新聞社は全て)で取り上げています。
多くの記事は、判決を簡単に紹介した上で、妥当な判決であるとし、最終的に政府・国会に迅速な対応を求めています。
②と③の部分については、法技術的になってしまって難しいので、とりあえず触れないことにします(実はこっちのほうが画期的な判断だったりするのですが。)。難しい話を解きほぐす時間ができたら、書きたいと思っていますが、おそらく来週以降になるでしょう。
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