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Posted by l.c.oh - 2005.09.04,Sun
 今日取り上げるのは、平成16年10月14日に出された判決です。これは、今回国民審査の対象となっている才口裁判官が反対意見を述べたということで、取り上げます。全文が最高裁のHPにないので、松山大学の先生の所にある判決文にリンクを貼っておきます。


何が問題になったか
 非嫡出子の相続分が嫡出子の相続分の二分の一とされていることが、憲法14条に違反しないか


裁判所の判断
 違反しない(ただし、5人の裁判官のうち2人が反対)

 才口千晴裁判官→違反している


詳細(といっても、できるだけ簡単に)

 昨日と同じ注意を書きます。
 まず、この判決だけで、才口裁判官の投票を決めてしまうのは危険だと思います。他のさまざまな要素を考慮して決めてください。
 もう1点、なるべく客観的に分かりやすく書くのが目的ですが、どうしても僕のバイアスが入ってしまう点があります。それはご容赦ください。

事実・法律
 憲法14条は、法の下の平等を定めています。ここでは、民法900条4項が、「嫡出でない子の相続分は嫡出である子の相続分の二分の一と」するという条文が問題になりました。この条文は、嫡出子と非嫡出子を不当に差別するものではないかと主張されたわけです。
 嫡出子というのは、単純に言うと、結婚している夫婦の間に生まれた子供のことです。普段の生活を一緒にしていても婚姻届を出していないと、ここで言う「結婚している夫婦」にはなりません。あと、結婚していないうちに生まれた子供でも、後で親同士が結婚すると嫡出子になります(「準正」といいます。)。両親が離婚しても、嫡出子でなくなることはありません。他にもいろいろ細かい決まりがありますが、とりあえずはこれだけ言及しておけば十分でしょう。
 非嫡出子というのは、嫡出子でない子供のことです。日本では、「婚外子」とも呼ばれます。家族という枠組みが法律の世界でも非常に重視されていた明治以降の日本では、非嫡出子は「不義の子」として厳しく差別されてきました。しかし、近年非嫡出子は増加傾向にあり(1980年に0.8%→2001年に1.8%)、家族の枠組みの流動化・個人主義の普及により、非嫡出子の権利を守ろうという動きが活発化しています(例えば、以前は戸籍に「非嫡出子」と書いていましたが、非嫡出子に対する差別を助長するということで、今は嫡出子も非嫡出子もみんな「子」と書くようになりました。)。
 なお、民法900条4項が使われるのは、原則として遺言を書いていない場合です。遺言を書いている場合にもちょっと影響があったりするのですが、難しいので割愛します。

裁判所の判断
 今日取り上げる判決では、裁判所は実質的な判断をしていません。平成7年7月5日に出した判決を引用して、判断は変えませんよ、と言っただけです。
 平成7年の判決の論理は、単純化すると以下のようなものです。

日本の相続に関する法律は、法律上結婚している夫婦を大事にしている(妻と子をまず相続人とする、妻が半分相続するなど。とりあえず、法律婚主義と言っておきます。)
 ↓
一方で、法律上結婚していない夫婦の子(非嫡出子)であっても、憲法14条により、なるべく平等に扱うべし、という要請がある
 ↓
非嫡出子の分け前を0でもなく1でもなく二分の一としたのは、法律婚主義と憲法14条の要請のバランスをとったもの
 ↓
(補足的に)非嫡出子にきちんと分け前を与えておきたいなら、遺言を書けば事足りる
 ↓
非嫡出子と嫡出子を分けたのは、きちんとした理由がある
 ↓
民法900条4項は憲法14条に違反しない


 このような裁判所の考え方に対し、H16年の判決で、才口裁判官が反対意見を述べました。その論理は以下のようなものです。

憲法14条は法の下の平等を定め、憲法24条2項は個人が尊重されるべきと定めている
 ↓
憲法は、性別や長男であることなどで相続に差をつけてはならないとしている、と考える
 ↓
(補足的に)平成7年の判決が出てから(この判決の時までに)9年以上経っていて、その間に人々の意識や社会の状況も大きく変わったのだから、平成7年の判決のような考え方が今でも有効だとは考えにくい
 ↓
法律婚主義は確かに大事にするべきだが、その方法として相続に差をつけることは、自分ではどうにもならない事情により差別されることであり、憲法14条に違反する

評価
 僕の極めて個人的な意見です。

 僕は、基本的に才口裁判官の意見に賛成です。
 裁判所の考え方にあるバランス論も、考えとしては一定の納得ができるところではあるのですが、これは、「半分もある」と考えるか「半分しかない」と考えるかの違いであって、今の社会には「半分しかない」という考え方のほうが適合的なのではないかと考えています。遺言を書いておけばいい、というのも、便宜的な気がします。
 もう1点。とりあえず遺言を無視して考えます。現在は、子供を嫡出子にする(前述の準正)ためだけに結婚することは認められていません(無効事由になる。昭和44年10月31日の最高裁の判断。)。となると、相手と法律上の結婚をすることは考えていないが、子供にはきちんと相続をさせたいという要望は、叶える余地がないことになります。わがままと言ってしまえばそれまでですが、それなりの事情(たとえば、婚姻届を出してしまうと、免許証などが夫婦同姓になってしまい、どちらかの仕事に支障が出るなど)も考えられるので、できればこのような要望にも応えられることが望ましいのではないでしょうか。

 なお、日本の非嫡出子の割合は、国際的に見ると非常に低いもののようです(スウェーデンでは50%超、アメリカなどでは30%前後だそうです。)。この背景に、非嫡出子に対する社会の評価や法律上の差別的な取り扱いがあることには留意する必要がありそうです。

 ちなみに、この900条4項は随分前から改正が取り沙汰されていて、改正案までできたのですが、夫婦別姓の議論に巻き込まれて一緒に葬り去られてしまったという経緯があります。また、最高裁判所でも、平成7年には賛成10人対反対5人だったものが、平成15年と平成16年には3対2になり、わずかながら徐々に拮抗してきています。いずれにせよ、近々法律が改正されるか、裁判所の考え方が変更されるでしょう。


 補足的な部分が随分と多くなってしまいました。全部読んでくださった方、本当にありがとうございます。少しでも参考になればうれしいです。
 明日は、判決ではなく、最高裁判所の役割についてちょっと考えてみようと思います。
 不明確な点や分からない点、評価に対する評価などは是非コメントをお寄せください。
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